嫌味を言われて返す方法と嫌味を言わなくても済む方法
台湾生活も二年目に入り、通学、行楽の足として積極的にバスを利用することが増えたある日のこと。
バスに乗り込んだら、運転席のすぐ脇というか後ろというか、通路が大きなバッグで占領されていた。部活の合宿帰りかと思うほど大きいスポーツバッグ。それを跨いで奥に進もうとしたけれど……
通路をすっかり塞ぐような形で置かれたスポーツバッグ。
私は車内奥ほどまで移動できず、扉閉まります状態からのバス発車いたしますとなった。
持ち主が近くにいるんだろうけど、どうにかしてくれる気配もない。
仕方なく跨いで奥へ進もうとしたんだけど、運転が荒いことで知られる台湾のバス車内で、物を大股で跨いで無事に進めるわけもなく、バッグの端っこを少し踏んづけてしまった(らしい)。
すると、そばで吊り革につかまっていた女性に「喂!小姐~~!」と嫌味な声で詰られてしまった。
え〜〜!私のせいなの?
私、そこそこ長身(170cm)で、その私が大股で跨いで端っこを踏んづけてしまったわけで、これがジジババだったら跨ぐこともままならないでしょうよ。バッグで通路を占領してることに気づかないあなたの方が悪いんじゃないの!?
と思ったけど、伝えたいことの半分もままならないほど私の中国語はまだ拙い。せいぜい仏頂面を下げてバスの奥へ。
その後、アルバイト先についてすぐ、日本語とちょっとの中国語と身振り手振りを交えて同僚にこのことを愚痴った。
ちょっと負けん気の強い彼女は果たしてこう言った。
「そういうときはね、同じくらい嫌味な口調で『對不起!』って言えばよかったのよ」
なるほど。次はそうしよう。
時は経ち……
その大荷物は、私にとっては迷惑だったけれど、荷物の持ち主はむしろ逆のことを思っていたかもしれない、という視点も持てるようになった。
例えば、その大荷物の主は、
「私はこの大荷物をバスで運ばなきゃならないはめになった。
私が一番迷惑をかけられていて、私が一番不幸」
と思っていたかもしれない。
「なんでわざわざ私のバスに乗ってきたのよ」
と私のことを疎ましく思ったかもしれない。
実際、私が乗ってから降りるまでの間、他の乗客は乗ってこなかったように記憶している。
台湾人同士ならきっと「踏んじゃうから少しどかして」と言うのだろう。
言われた方は「踏まないようにしてよ」と少しどかすのだ。
日本を訪れる外国人観光客に対して、「常識がない」とか「日本の文化を知らなすぎる」と、特に観光地では摩擦が起こっているというニュースを見るたびに違和感を感じるのは、きっとそういう意識の変化があったからだろうと思っている。
あのバスに乗っていたあの時の私は「ちょっと考えれば迷惑だってわかるでしょ!」と憤っていた。「みんなに迷惑なのに!」と。
でも、「邪魔だ」「どかしてほしい」と思ったなら、「邪魔だからどかしてほしい」と言えばよかったのだ。
「日本の文化を知らなすぎる」と思ったなら、知ってる人が教えてあげればいいだけなのだ。
台湾人はお節介で口やかましい。「あんた、コレ知らないでしょ。教えてあげるわ」といろいろと指図してくる。
本当にお節介で口やかましくて、知らないこと、わからないこと、日常の困りごとがいつの間にか減らされてしまう。
お節介で口やかましくて構いたがりな台湾人に揉まれているうちに、私自身も臆せずお節介に振る舞えるようになってきたのを実感する。
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中国語:挖苦(ㄨㄚ ㄎㄨˇ)
日本語:皮肉、嫌味