不親切な日本人

外国人の友人と話していると、「日本人は親切だ」という人と「日本人は不親切だ」という人とに分かれる。
海外に住んでいる日本人として思い当たる節はある。

台湾では電車やバスで若者が席を譲る光景をしょっちゅう目にする。
とても素敵なことだと思ったのですぐ真似をした。
子供を産んでからは私が譲られる対象になった。
当時はスリングを愛用していて、どこに行くんでも抱っこだった。

赤ちゃん連れで日本に帰省したときのこと。
母と一緒に、このときもやはりスリングで外出した。
電車で移動中に、目の前の席が一つ空いたので、自分が座ろうか母を座らせようかと考えていたら、空いたドアからスーツ姿の若い男性が乗り込んできて、さっとその席に座った。そして目を瞑った。
春先の、午後四時を少し回った頃だったと記憶している。
新入社員さんだったのかもしれない。
覚えることが多すぎて今日も疲れた……社に戻ったらあれしてこれして……あ、席空いてるラッキー、ちょっと休憩……その気持ちはよくわかる。かつての自分もそうだった。

日本人は公私混同を避け、役割を全うすることをとても重視していて、「組織」「所属」意識がとても強いと思う。
逆に言うと、公と私を自然と切り分ける。
「〇〇社社員の田中さん」の時は笑顔でお客様を席に誘導し、「ただの田中さん」の時は空いている席にいち早く滑り込んで狸寝入りを決め込んだりする。

地元の小学校では「ふれあいフェスティバル」という催しが年に一回あって、バザーや出店も併催するので保護者や地元の方も多くいらっしゃるイベントだった。
子供達はクラスでの催し物を企画して、当日は交代で接客した。
接客対象は赤ちゃんからご年配までの老若男女を想定し、ホスピタリティを学ぶ良い機会であったと思う。

日本人はホスピタリティ精神がないわけではないどころかむしろ旺盛なくらいだと思うけれど、ホスピタリティ精神を発揮することと、「町に所属している意識」が外国人に警戒心を抱かせることは矛盾しない。
これが「日本人は不親切」の正体だろうと思う。
対して、台湾人は「家族」「血縁」意識が強い。
家族のことを一番に考えることと、外国人を家族以外の「新しい刺激」と捉えて好意的に迎え入れることは矛盾しない。

ところで、白髪染めをやめて数年経った私の前髪はいま、クルエラばりのツートンカラーだ。
席を譲られる方の外見に近づいてきたので、若い子達に気を遣わせまいと最近はなるべく席を譲らないようにしている。

—–
中国語:公私分明(ㄍㄨㄥ ㄙ ㄈㄣ ㄇㄧㄥˊ)
日本語:公私混同しない

Last Updated on 2022年5月11日 by