台湾の市場でお手伝い
台湾生活二年目にお付き合いした男性の家業が朝市の八百屋だった。
彼自身は平日はサラリーマンで、土日の午前中に八百屋の手伝いをしていたので、私も予定がない週末には、台湾の風俗を知るいい機会と捉えてちょくちょく手伝いに行った。
朝市は活気がある。そこは大きめの運動公園に併設した市場で、朝の運動をひとしきり終えて市場に寄ってから帰るおばさま達が多かった。
台湾の市場は量り売りが基本だ。
青梗菜やほうれん草、空芯菜といった青菜を、さっと一台斤(600g)分をひとつかみにして、紅白シマシマのビニール袋に押し込む。
市場で値段を聞くときは「多少錢?(いくら?)」ではなく「怎麼賣?(どう売るの?)」と聞くのが一般的だ。
すると「一斤15塊」だとか「一斤80,兩斤150」「一顆20塊,買五送一」などと返ってくる。
その当時の私の中国語レベルはというと、ゆっくり話してもらえば会話が成立するくらい。
だから手伝いといっても野菜の品出しがメイン。屋台の奥の段ボールのそばが所定位置で、汚れたところや痛んだところをナイフで切り落としたりもしていた。
お昼近くなって客足が落ち着いて、他の人達がトイレに行ったり食事したりタバコ休憩を取ったりするときは私も前に立って接客をした。
市場で物を買うときは、声と態度を大きくしないとどんどん割り込まれてしまう。
売る側からすると、声が大きい方にどうしても注意が向いてしまうのだ。
とはいえ、たまにこちらのバタバタが落ち着くのを見計らって声をかけてくれたり、目が合うまで待ってたりする人もいた。
すごく日本人ぽいと思った。
そういう人は、声も態度もいろいろでかいおばさま達に先を越されまくるのだけれど、それが彼女達の秩序で、もし日本に住むことがあったら、日本が大好きになるに違いないと思った。
高速道路のジャンクションで、一台ずつ交互に合流するのを見て台湾人は称賛する。
合流後のハザードの「ありがとう」で感動し、パッシングの「お先にどうぞ」で感動する。
台湾でパッシングは「俺が通る。お前はくるな」の合図だ。
ところで市場では、台湾のもう一つの言語 台湾語(閩南語) がほぼメイン言語だ。
特にジーサマやバーサマには普通語(中国語)で返答しても「はぁ?」と聞き返されてしまうことが多いので、バックヤードで休んでいる彼や彼弟や彼母を呼んでバトンタッチする。
彼母と私と二人だったときに台湾語で問いかけられて困っていると、ちょうど接客を終えた彼母が「この子、日本人なのよ」とフォローしてくれたりするのだが、「日本人のわけないでしょ」と信じてくれないことがほとんどだった。
日本人のお嬢さんは、こんな土埃の立つ場所で肉体労働などしないと思われていたのだろう。
日本人は男女共にトレンディードラマのようなおしゃれさんばかりだと思われている節もある。
彼らが客と話しているのを傍で聞いて、数字と金額くらいは台湾語で言えるようになった。
門前の小僧なんとやらである。
空芯菜も最初の一掴みでほぼ一斤分取れるようになった。
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中国語:傳統市場(ㄔㄨㄢˊㄊㄨㄥˇㄕˋㄔㄤˇ)/超級市場(ㄔㄠ ㄐㄧˊㄕˋㄔㄤˇ)
日本語:市場(青空市場)/スーパーマーケット